雇用リスク

雇用リスク

企業の実力は、その雇用している全従業員の能力の全体ともいわれます。人的資源は、企業の経営資源の中でも最重要なもので、経営者が注意を払うべき最重要事項ともいわれます。従って、雇用リスクは数あるリスクの中で最も重視される必要のあるリスクと言えます。

最近、コロナ問題でさらに注目されている「働き方改革」に関連し、雇用形態も従来の「年功序列」からジョブ型雇用への移行への動きが徐々に出てきています。特に、リモートワークなどの動きが定着すると、ジョブ型雇用の方がやるべき仕事がはっきりわかり、企業、従業員ともオフィス以外の場所での活動の透明性が確保され安定的に仕事が出来ます。

しかし、このような変化は、それが完全に定着するまで、色々な摩擦を生みやすく雇用リスクの面で慎重な注意が必要です。

雇用リスクの主なものは、次の通りです。

  • 労務災害(ケガ、疾病)
  • 精神疾患・自殺
  • 従業員の離職
  • ハラスメント
  • 不当解雇
  • 従業員による犯罪

雇用リスクの特徴は、アップサイドとダウンサイドの両面があることです。
多くの場合、人は、組織を信頼し、安心して健康的に高いモチベーションを持ち目的達成に向けて働くとき、最も生きがいを感じるといわれます。生産性は大きく向上し、新しいアイディアが生まれ、企業業績も向上する可能性があり、従って、このリスク管理の大半は達成できるという方程式が成り立ちます。

一方、逆の場合は、上記のダウンサイドリスクが顕在化する可能性が出てきます。
この場合、レピュテーションリスクにまで影響を及ぼすことがあります。

従って、雇用リスクの対応は、まず、高いモチベーションが維持できるような仕事の仕方を考え、公正で透明性のある評価を行い、健康で失敗を恐れず仕事に取り組める良好な職場環境を維持することと言えます。
その上で、上記の個別リスク対応を行う必要があります。

雇用リスクの個別的対応で最も重要なことの一つは、出来るだけ適正な人材を見つけ出し雇用することです。
不適正な人間が参加すると組織全体に計り知れない悪影響を与える場合があります。
このような場合、対応する必要が出てきます。
この様なリスクを軽減するため、以下の整備が必要です。

労働契約は、会社と従業員との間の双務契約ですから、採用される従業員は、会社から報酬を受け取る代わりに、会社の労働を提供します。その際、従業員は、あらかじめ定められ同意した会社の規則条件等に従う義務を負います。
採用した従業員が、これらの規則条件に合わず、また従わなかったときには、会社は、法的に定められた手順に従い、再教育、指導の後、それでも不適であれば、解雇が可能になります。

このため、以下の条件を整えておく必要がありあます。

  • 労働条件通知書兼雇用契約書:民法及び労働法の基づくのもで、会社及び従業員双方の雇用条件を定めるものです。賃金の対価として提供される労働に関して予め条件を明確に書き込んでおくことが賢明です。例えば、秘守義務、ハラスメント禁止、就業規則の順守等、入社後聞いていなかった等のトラブルを避けるためにぜひ必要です。
  • 就業規則の整備:労働基準法等で定められた労使双方が守るべき規則です。この規則は、職場環境を整備するうえで基本になるものですから、遵守事項、罰則を含め詳細に書き込むことが必要です。また、社内で周知徹底させるとこも重要です
  • 新入社員雇い入れ時には、「労働条件通知書兼雇用契約書」及び「就業規則」を詳しく説明し同意のサインをもらうことも重要です。

ハラスメント

改正労働施策推進法いわゆるパワハラ法が導入され、大企業は、2020年6月中小企業は2022年4月から適用されることになっています。
ハラスメントの種類は数多くありますが、いずれの場合も従業員に過度な精神的苦痛を与える結果となった場合には、加害者である社員だけではなく使用者である会社も民法上の責任が問われます。
このパワハラ法は、企業が規制当局の勧告に従わなかったときは、社名を公表することになっており、レプテーションリスクの観点からも注意が必要な法律です。

ハラスメントは、相手に精神的苦痛を与えることにより発生しますが、その苦痛の程度は、人により状況により変化しますから管理が非常に難しいリスクと言えます。

就業規則により基本的なルールを明確化し周知徹底すること、明るい職場環境を維持する事で、かなりのリスク軽減にはなりますが、ハラスメントは存在する場合があります。

そこで、解決方法の一つは、

  1. 社内相談窓口を作る事
  2. 定期的な無記名アンケート調査の実施

これにより社内の実態が分かり、社内のワークルールの中にハラスメント防止に係るノウハウが組み込まれ、安定的な業務環境が確立できる可能性があります。

労災事故

上記のハラスメント対策の実施により雇用リスクのほとんどは解決できますが、業務中のケガ、業務環境からくる疾病のリスクは残ります。

ケガ

業務中のケガは、削減できても完全には無くすることは不可能です。どんな職場でも発生する可能性があります。また、最も重要な経営資源である従業員のケガは、組織内の士気と効率に重大な影響を与えるので、その防止には細心の努力と注意を払う必要があります。

道内の労災死亡事故は、「北海道労働局」発表で2020年1月~7月の半年で、21人、製造業、建設、交通、商業等多くの産業に亘り発生しています。

企業は、従業員の労災事故に関しては、使用者としての賠償責任を負いますから、補償準備をしておく必要があります。使用者としての補償は、自動車事故の対人賠償と同じ計算式で行われますから、十分な準備が必要になります。