財物リスク

財物リスク

特に製造業にとり、工場、倉庫等生産活動に係る財物のリスクは、深刻な脅威になる場合があります。
その主な原因は以下の通りです。

  • 火災・落雷・破裂・爆発
  • 地震
  • 水災
  • 風災・雪災
  • 建物外部からの物体の衝突
  • 車両・航空機の衝突
  • 給排水設備からの水濡れ

これらの数々の原因に対し、それぞれ一定のリスク削減を行い、火災保険に加入する等のリスク移転を行うことになります。

火災・水災・地震等に対する減災(Risk Avoidance /Mitigation)

計画外の生産活動の停止は、企業にとり深刻な脅威になりますから、リスクの排除、軽減は、優先度の高い課題になります。
これらのリスクに対する抵抗力を高める財物への初期投資は、費用対効果を考えると非常に有効な投資と言えます。
また、特に、物件のリスクに対する基本的な抵抗力を維持するための定期的なメンテナンス等は重要です。
対策は種々考えられますが、主なものを挙げると以下の通りです。

  • 生産設備の分散:特に、自然災害の影響は、抵抗し難い場合があり、生産設備等に壊滅的な打撃を受ける可能性がある場合には、生産設備に移転を考える必要があります。また、それほど脅威が深刻でなくとも、大災害によるインフラの壊滅等を考慮すると、生産設備の分散が長期的には、生産設備に集中による効率化より有利になる可能性があります。
  • 個別工場の減災;対策はいろいろありますが、主なものを例示します。

火災

  • 電気設備等の定期点検:変圧器からの出火が良くあります。
  • 防火ドアの活用等、火災の初期対応設備:有効活用が、重要です 。

地震

  • 生産設備の固定:地震の揺れに有効です。費用対効果が大きい場合があります。

地震の揺れに虚弱な設備(パイプライン等)への対応

  • 設備関係の減災は、取引先の設備設計事務所のアドバイスが有効と思われます。

水災

  • 浸水防止設備
  • 電気設備等水に弱い設備の高所への移設

工場のリスク

火災保険を掛ける等のリスクの移転を行う場合、各リスクについて、PML(最大可能損害額)を適切に計算しそれを保険金額とする必要があります。

また、工場が、火災、水災、地震等で全損壊になった場合、その工場の再建が必要な場合は、その建物の評価価値ではなく、再建費用を保険金額とする必要があります。 

一方、以前からその工場の収益性が低く再建計画がない場合には、被災時に、サンクコスト(埋没費用)化します。このような工場に、火災保険料を払って損害の補償を確保する必要は無いといえます。
無論、全損時にかなり高額の取り片づけ費用が掛かり、また、帳簿価格が残っており、除去損が、かなりの金額になり、財務上負担が大きいなどの判断があれば、その分だけ、保険を通じリスク移転を行うことに不合理ではありません。

(注)サンクコスト(埋没費用):一旦行った投資が失敗し、どの様な手段でも回収できなくなった時にその投資は、サンクコストと見なされます。将来のビジネスに何の貢献もしないので、過去に費やした資金に縛られず投資計画を立案すべきとする経済学の考え方。 

有名な例は、イギリスとフランスが共同開発した超音速ジェット機コンコルドがあります。開発費約4000億円に積みあがったところで、開発しても赤字になると判明しても、“もったいない”と開発を強行し大赤字を出した、最後は撤退したケースです。 

卑近な例では、チケットを買い映画を観始めた時、全く期待外れと分かっても、チケット代がもったいないと、後悔し不運をなじりながら最後まで観続けるような場合です。チケット代をサンクコストと割り切り、他に楽しい時間を求めたほうが幸福度は高いと考えられます。

PML(最大予想損害額)

いずれにしても、企業は通常多くの工場などの財物を所有しており、これらの財物を、火災保険などを通じて一括してリスク移転する場合には、各リスクに対する対処となる財物の経済価値を検討の上、補償限度額を決める必要があります。この限度額を、PML(Probable Maximum Loss)と言います。

BCP対応

火災、水災、地震等の災害は、企業の事業継続にとり最も深刻なリスクと言えます。
これらのリスクを網羅したBCP計画の立案と実行が、非常に重要です。

在庫のリスク

在庫のリスクは、単に工場にある在庫だけを対象にしても不十分です。自社の使用するサプライチェーン全体に対するリスクを理解し、対策を考える必要があります。
サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、外部委託等が増えれば増えるほど、管理が大変複雑になり慎重に対処する必要があります。
この分野の損害保険は、長い伝統があり使い勝手の良いものがありますが、保険設計は、慎重にやる必要があります。

情報及び関連機器

災害等による情報の喪失に関しては、コピーを離れた同一の災害で喪失しない場所に保管することで、リスク回避が可能です。通常、比較的低コストで実現できます。